寺の西側に当たる町の中ほどに「佐保旅館」はあった。通りから見てそこに看板がなかったら小さな門を持ったしもたやとしか思えない。通子は門をくぐり格子戸の開けてある玄関までの短い石だたみを踏んだ。
(中略)
ポストにハガキをすべりこませたとき、通子は犬の低い唸り声を聞いた。
この通りはふるい農家のままの土塀や板塀の家もあったが、二階家で間口のせまい家ならびがはさまっていた。階下が格子戸、二階が櫺子(れんじ)窓で、アズキ色に塗ったそれを長年かかって拭き上げ艶をだしたといったしもたやであった。軒灯と街灯のほかには格子戸の内側に橙色の明りがうすく映っている家もあった。奥でテレビを見ているらしく、人声と音楽が洩れていた。(火の路・松本清張より)
(語源由来辞典、goo辞典より)
(ならまち、イメージ)