定期バスの中は柔らかい関西訛りばかりだった。ゆっくりとした勾配の道を下りた近鉄奈良駅前と、次の高天町の停車で乗客が半分ぐらいになった。膝の上のスーツケースを座席に置いてもひろびろとしていた。
北に曲がって法華寺中町から西に折れた。これからはまっすぐな長い道である。付近に学校が多く、街灯だけが目立つ寂しい通りであった。踏切を渡ると暗い中に田畑がひろがった。地図にはこの辺が「佐保路」と出ている。
また町に出た。角を曲がってすぐが「法華寺前」の停留所だった。(火の路・松本清張より)
奈良交通バス路線図より 一部抜粋