人形浄瑠璃『妹背山婦女庭訓/いもせやまおんなていきん』及び、その歌舞伎化されたものを言う。
近末判二ら五人の合作。一七七一年初演。諜反を起こした蘇我入鹿を藤原鎌足が討ち滅ぼすまでを中心的なストーリーとするが、その三段目「大宰館」と「山の段」は、吉野川を隔てて敵対する大判事清澄・久我之助父子(紀伊の国領主で背山に仮屋を構える)と、大宰少弐(だざいのしょうに)の後室定高(さだか)・雛鳥母子(大和の国の領主で妹山に仮屋を構える)の物語になっている。久我之助と雛鳥は秘かに恋し合う仲だったが、両家の不和と中を隔てる川が障害となっていた。そこへ清澄は入鹿から久我之助を出仕させよと言われ、天皇への忠義のために久我之助を切腹させる。一方、定高は入鹿から雛鳥を入鹿の後宮に入内(じゅだい)させよと命じられ、久我之助に操を立てて自害した雛鳥の首を切り落とす。これを機に清澄と定高は和解し、雛鳥の首を瀕死(ひんし)の久我之助の許に嫁入らせる。なお、『妹背山婦女庭訓』では、吉野川が大和と紀伊の国境をなすように描いているが、実際はそうではない。(新潮文庫 吉野葛 谷崎潤一郎)注解より
国立文楽劇場 2010年4月公演より