そのほかにも、日本に入ってきてもよさそうなもので、入ってこなかったものはいくつもある。──中国文明、というよりも「漢文明」のたいへん重要な要素になっている「同姓不婚」という婚姻形式も日本にはいっていない。朝鮮半島までは、がっちり入っているのにかかわらず、とうとう海峡をわたってこなかった。同姓不婚というのは、簡単にいうと、王妃なら王妃の家族同士は通婚しない、という婚姻タブーで、古く漢代に成立し、朝鮮半島では、高麗のころから入り、おそくとも、李朝朝鮮のころにはすみずみまで滲透したらしい。同性でも、この本貫(本籍)とこの本貫となら通婚できる、といったこまかい規定がある(革命後の人民中国では、法律では同姓不婚をべつに規定していないが、しかし通婚は八親等以上のあいだ、というきびしいものであって、やはりその痕跡が強くのこっているようである)。「イトコ同士は鴨の味」などといって、三親等はなれれば、いっこうかまわない、という感覚の日本人は、そんな話をきくと、きょとんとしてしまうが、むこうではたいへんやかましく、また結婚しても、女のほうは実家の姓を名のるものである。(本文より)