アルタイ語に共通の「母音調和」ががつて日本語に存在した、という発見は、日本語の起源をアルタイ語族にむすびつけようとする多くの研究を生んだ。──だが、肝心の語彙の対応や、発音習慣の問題で大きな壁にぶつかり、足ぶみをつづけるうち、今度は、日本語と「南方語」とのあいだに、より密接な関係を見出せる、という説がつよまってきた。──最近の注目すべき発音は、奈良教育大の英語学助教授川本崇雄氏の、日本語の「南島語起源説」である。
川本氏は、南島語(アウストロネシア)(一名、マレー、ポリネシア語族、インドネシア、フィリッピン、台湾、メラネシア、ミクロネシア、ポリネシアなど西部太平洋にひろく分布する大語族)と日本語の「基礎語彙」、つまり借用関係のすくない、「同系」の証拠になりうる単語を精力的に集め、両者のあいだに「音韻法則」が存在することを証明できそうなところまでこぎつけた、という。さらに擬態語キラキラとかシトシトといった言葉)では四百ちかいものが南島語と関連づけられ、語形変化や、動詞の活用も、また借用関係の起こりにくい「格助詞」のうち、ガ、ノ、ニ、ヨリ、ヘなど重要なものが、メラネシア諸語と関係があることがわかってきた、というのである。──問題は「語順」であるが、アルタイ語型の語順をとる言語は、何もアルタイ語族だけでなく、ニューギニア、インド、アフリカ、アメリカにもある。結論として、川本氏は日本語を、「アルタイ的な言語の土壌に育った南島語、それともメラネシア的言語と考える」(昭和四十九年十二月七日付朝日新聞夕刊「日本語の起源をめぐって」)。(本文より)