さて、この「アルタイ語族」に共通な性格をざっとしらべてみると、インド・ヨーロッパ語(以下「印欧語族」と書く)にくらべて、次のような特徴がある、とされている。
①印欧語族に厳密な、名詞の「単数、複数」の区別が、アルタイ語では厳重でない。
②アルタイ語は、名詞に男性、中性、女性の区別がない。
③名詞の前について、男・中・女性、単・複数などによって複雑に変化する「冠詞」がない。
④格変化(主格、目的格などのちがい)を、印欧語は語順、語尾変化であらわすが、このとき語尾が男・中・女、単・複で変化する。アルタイ語ではこうしたことはなく、「後置詞」(日本語の「ガ」「ノ」「ニ」「ヲ」にあたる助詞)をもちいる。
⑤アルタイ語では、形容詞がそのまま述語になるが(たとえば「火は」「あたたかい」)、印欧語はかならず「アル」という語を中間にはさむ「Fire is warm.(火ハ・アル・アタタカイ)」。またアルタイ語は名詞と形容詞の区別がはっきりしない。
⑥アルタイ語には、印欧語のように、形容詞に、比較級、最上級という形がない。
⑦アルタイ語の動詞の基本形はそのまま名詞にもちいられる。またそのまま命令形になることが多い。
⑧アルタイ語には受身の表現はなく、動詞の後に「アル」という語をつけてあらわすことが多い。
⑨動詞の使役形をつくるのに「する」という動詞から転じた語を、動詞の後につけてあらわすことが多い。
⑩印欧語に多用される「関係代名詞」がない。
⑪形容詞、副詞は名詞、動詞の前に、また目的語は動詞の前にくる。
⑫疑問文は文の終りに疑問の助詞をつけてあらわす(日本語の助詞「か」と同じ)。
(大野晋著『日本語の起源』岩波新書による)
(大野晋著『日本語の起源』岩波新書による)
こういったアルタイ語の特徴を、日本語とくらべてみると、印欧語族より、はるかに日本語と共通するところが多いのは一目瞭然であろう。──だから、ある意味で、日本人には、トルコ語や蒙古語、ツングース語(満州語などがそのひとつであるある)などのほうが英語などよりははるかにおぼえやすく、あやつりやすいのである(朝鮮語も、このアルタイ語族にはいるといわれるが、しかし、朝鮮語は、いろんな面で、これらの語族とかなりちがっているところも多い)。(本文より)